ここには,これまでのいきさつと研究内容の紹介を記載します。『いきさつ』や『問題意識』は個人的な備忘録の意味合いもあり書いていますので,研究内容をさっと見たい場合は『やっている研究の概要』へ飛んでください。また,個人的見解が多分に含まれていますので,ご注意ください。
簡単に言ってしまえば,半導体技術であるLSI(Large Scale Integrated circuits: 集積回路)とMEMS(Micro Electro Mechanical Systems:微小電気機械システム)を融合させ,それらからなるシステム(ソフトウェア,サービス等含む)を作って世の中をよくしていこう,ということをやっています。このあたりの技術に興味がある人は,以下の江刺先生の本を読むことをおすすめします。
- これからのMEMS LSIとの融合, 江刺 正喜 (著), 小野 崇人 (著) ,ISBN-10: 4627775512,ISBN-13: 978-4627775510
- 私の研究(ロボット用触覚センサネットワークなど)も書かれています。
- はじめてのMEMS,江刺 正喜(著),ISBN-10: 4627784910,ISBN-13: 978-4627784918
いきさつ
さて,私の研究のバックグランドの紹介ですが,興味の変遷から入りましょう。もともとは小学生のときからプログラミング(NEC PC9801-RX2を自宅に持っており,N88-BASICで組んで遊んでいた)が好きで,自作シューティングゲームのためのグラフィック作成ツールなどを作って表彰されていた(平成3年11月2日,熊本テクノポリス’91「マイ・タッチ」フェア,マイ・タッチ賞(ソフトウェア部門))こともあり,ソフトウェアに興味がありました。ちなみに,シューティングゲームはドット単位で弾を避けるのが好きです。
大学でもソフトウェア系の講義を中心に受けていたのですが,あるとき”ソフトウェアはどこでも勉強できて組める,でもハードウェアはそうはいかない。装置やツールも高価なものが必要だし,なによりノウハウが重要だ。大学にはこれらが揃っている。大学では,ハードウェアを中心に研究をやるのが絶対にいい”と思い立ち,研究室をハードウェア系に絞って九州大学の安浦・村上研究室(安浦寛人教授は現在は九州大学副学長)の門を叩きました。そこでは,LSI設計技術を中心に,回路技術,ハードウェアの設計手法(CAD: Computer-Aided Design),ハードウェア/ソフトウェア協調設計,高性能(高速・低消費電力)CPU(Central Processing Unit),特定用途向け高性能計算機システム,などの研究が行われていました。配属時の研究テーマは,演算回路の低消費電力化で,当時としては高性能化が花形で,まだあまり低消費電力化は注目されていなかったように思います。ただ,今の環境問題(省エネルギー,環境発電),IoT(Internet of Things),Trillion Sensorなどの社会情勢から考えると低消費電力化はより一層重要になってきていると思います。選んで良かったと思っています。素晴らしい先生,先輩,後輩,OB/OG等に恵まれ,楽しく,厳しく(ここ重要)過ごし,そのまま博士後期課程に進みました。
博士課程のときに,九州大学の産学連携機構で企業の方と大学の研究室を繋げるお手伝いもしていました。大学の先生のシーズをかみ砕いて企業の方に説明したり,企業の方のニーズに合わせて大学内の研究をピックアップしてリストを作成したりしていました。また,福岡知的クラスター創成事業(第Ⅱ期)の応募のために,大津留榮佐久さん(当時,ソニーセミコン九州,その後九州大学特任教授)と一緒に各国をまわりコンセプト作成のお手伝いをさせて頂きました。そのときのロードマップ,技術マップの作成など,高い視座からまとめる方法を学ぶことができました。
博士課程3年生のときに,当時富士通研究所アメリカに勤務していた安浦研の先輩の石原亨さん(現在は京都大学准教授)からの誘いで,インターン生として富士通研究所アメリカ(Fujitsu Laboratories of America)@カリフォルニア(サニーベール,シリコンバレー)に4カ月程度行きました。そのため,博士論文の提出がちょっと(??)遅れてしまいましたが,非常によい経験でした。インターンでは,プロセッサの低消費電力化のための高い抽象度かつ高精度な電力見積をやっていたのですが,カリフォルニア(特にベイエリア)の環境・人の素晴らしさには目を見張るものがありました。今でもカリフォルニアは憧れの地です。ここでベンチャーを立ち上げたいという気持ちがあります。ここでは,研究室の先輩で働いている人もいますし,研究室関連の方で何度も会社を作っている方もいました(吉田健人さん,エクセレントデザイン,SFTなどを立ち上げられました)。当時,いろいろなつてを使い,九大のカリフォルニアオフィス(松尾所長),SVJEN(Silicon Valley Japanese Entrepreneur Network),JTPA(Japan Technology Professional Association)などの方々に会いに行き,シリコンバレーやベンチャーについてお話する機会がありました。そのときお話したことは今でも私の中での羅針盤となっています。ベイエリアの自由な空気と最高の天気,高度な知性のぶつかりあう環境,フェアな環境にまた身を置きたいと思っています。カリフォルニアに限らず,自由と成長を感じつつ世の中を変えるような大きなことを仲間と思いっきりやるのが目下の目標です。
博士課程修了後,九州大学のシステムLSI研究センターに助手として赴任し,素晴らしい環境(海岸近くの百道浜にオフィスがある)と素晴らしい上司(佐藤寿倫教授(現在は福岡大学教授),石原亨准教授)と同僚と仲間に恵まれ,『CPU,コンパイラ,OS,ソフトウェアまで』階層横断的な組込みシステムの低消費電力化を中心に研究を進めていました。その折,安浦先生より,「東北大学のMEMSの第一人者である江刺先生がLSIの設計ができる人を探しているが,次の仕事としてどうか」と話があり,江刺先生と直接会いました。そのとき,「僕は人生なりゆきで生きてきたんだけど,それでうまくいってるよ,なりゆきもいいよ」という言葉が,縁を大切に考えていた自分としてはヒットし,東北大学へ異動することを決心しました。もちろん,研究としての戦略的な意味合いもきちんと考えていました。安浦・村上・佐藤・石原研では,LSI設計技術,ロジカルな考え方と,社会基盤としての情報技術という視点を多少なりとも学びました。それに加えて,東北大学は実学が有名(特に半導体関連)で実際的な思考・技術を学べる事,LSIにMEMSの付加価値を与えることで情報技術の可能性を大幅に広げることができること,により相乗効果で面白いことができるのではと考えての決断でした。安浦先生の”30代で師は30人は持て”の言葉もあり,師の数を増やす意味でも重要でした。
東北大学の江刺・小野・田中研究室(現在は,江刺正喜教授は退官されマイクロシステム融合研究開発センターの教授,小野崇人教授は別研究室,田中秀治教授のもとで私は研究)に来てからは,前の研究室と比較しその文化の差異に,当初はとても困りました。MEMSの研究室にLSI設計者がひとり(江刺先生は理解されていますが)の状況の中で,もがいていました。ただ,乗り越えるとものすごく成長します。道場みたいな場所で.やる気のある人にはおススメです。是非,田中研の門をたたいてみてください。半導体技術というベースはあるものの,やはり異なる文化です。この違いを乗り越え,今大きな付加価値を産みつつあります。
最近は,何度かお話させて頂いたPFN(Preferred Networks)が提唱しているEdge Heavy Computingの概念を基に考え,私が提唱している(2016年のセンサシンポジウムで発表)『Edge Heavy Sensing:エッジヘビーセンシング(エッジ側での重点的なセンシング情報生成)』は,今後の機械学習等への応用を含め大きな可能性を秘めていると考え,積極的に取り組んでいます。特徴のあるハードウェアをベースにしたソフトウェア/アルゴリズム開発,それによる圧倒的なサービスの実現を狙っています。いわゆる汎用AI(機械学習)応用システムではなく,ドメイン特化型機械学習用プラットフォーム(Domain Specific Machine Learning Platform)の構築を狙っています。特に,Evidence-Based Society(Evidence-Based Medicine: EBMから私が考案)実現のためのエッジのデータ(→情報→知識→知恵(意志を含む))を扱います。ハードウェアをやっている人,ソフトウェアをやっている人はそれぞれ自分の領域を重視しやすい傾向にありますが,その上の階層であるシステムやアプリケーション,その利用者が重要であり,当事者として顧客創造のために垣根を徹底的に取り外して関係者(広い意味でのステークホルダー)と事を進めるつもりです。これまでの私のバックグラウンドを活かし,ハードウェアだけ,ソフトウェアだけ突き詰めても到達できないところを目指します。ご協力頂ける方,一緒にやりませんか?
ところで,私の志を以下のように決めました。いい言葉考えついたものだと自負しています。この志を基に活動します。
”人類の幸せの連鎖に資する情報を生成,蓄積,共有し,そして伝える” by 室山真徳(2017年11月25日)
”みんなの幸せのため,森羅万象の素顔を理解し,行動に繋げる。更に,人類を次のステップに導く” by 室山真徳(2018年8月20日更新)
この言葉,たくさんの思考を重ねた結果のエッセンスです。
そのための,LSI設計,無機/有機半導体デバイス,センサデバイス/システム,アクチュエータ,計算機科学,デザイン,VR/AR/MR,人工知能(機械学習),データ解析/統計学,スパースモデリング,脳科学,ロボティクス,ビジネスモデル,プラットフォーム,ブロックチェーン,ファイナンス,心理学,感性工学,プログラミング,教育方法・・・などを日々勉強中です。”勉強しまくらんとあかん”ですね。これは孫正義さんのお言葉です。私は世間の常識には疑問を持っていて,よく”一つのことに特化しろ,あとは専門家に任せろ”と言われますがそれでは一段高いところでの思考ができないと考えていますのであえて逆張りで行きます。
問題意識
現在ハードウェアをコアとして,ソフトウェアやシステムを含めた研究を行っていますが,問題意識として世の中広く普遍的に使ってもらうためには,『よい』とされるシステムだけではなく『デザイン』を考えることが何よりも重要であるという認識があります。カッコよければよい,性能がダントツに高ければよい,安ければよい,という話では短期的には受け入れられるかもしれませんが,普遍的に使えるようなモノを考えるときにはデザインを忘れるわけにはいきません。たとえば,コップ,箸,椅子などは普遍的なデザインが施されているからこそ,我々の生活に寄り添っているのだと思います。自我を押し付けるような研究ではなく,人々と共鳴できることを提供できるような,そんなデザインまで含めた研究を進めていきたいと思います。現状ではなかなか難しいですが,できるという信念があります。以下に私がおススメする本に記載されているためになる(特に自分に向けて)言葉を書きます。
”デザインは基本的には個人の自己表出が動機ではなく、その発端は社会の側にある。社会の多くの人々と共有できる問題を発見し、それを解決していくプロセスにデザインの本質がある” デザインのデザイン by 原研哉
”人の営みの中で、デザインが一切関わっていない物(モノ)や事(コト)など一つもない”,”人の営みにおいては、どんな発想も、どんな技術も、どんな素材もデザインを経なければ役立つ物や事にはなり得ません”,”付加価値とは、まさに外から価値を付け足すことに他なりません。私は、「価値」を付加だと捉えるようになってから、日本の物づくりはダメになってきたのだとさえ思っています。価値とは、そもとも外から貼り付けたラベルごときものなのか”,”本来デザインは、それ自体に価値があるわけではなく、デザインされたものと付き合う人との関係の中で効力を発揮するのです” 塑する思考 by 佐藤卓
“生物は、形態と機能を調和させる 『BIOMIMICRY by ジャニン・ベニュス女史』” 生物に学ぶイノベーションby 赤池学
まだまだ普遍的なデザインというところまでにはいきませんが,ともすればついつい忘れてしまうこれらの当たり前のことを心に留めておくためにここに記しておきたいと思います。技術をやっていると性能を追い求めてしまうものなのです。以下では性能について書いていますが,私の目標は,『良質なデザインを通して世の中に普遍的なモノやコトを提供する』ことにあります。
分かりやすくやろうとしていることを説明すれば,私の考えに近いところとしてのArduino(Wiring/Processing)があります。Arduinoを知ってる方が多いと思いますので,ここでは詳細は記載しません。もともと工学を専門としてない方向け,つまり一般の方,アートや建築などに関わっているような方でも使える電子回路システムのプラットフォームとして開発されてきた経緯があります。この考え方は私の考えとも一致しています。私が目指すところも,もともとの目的に沿った形で使える(デザインを考慮した)電子回路システムのプラットフォームを提供することです。さしずめAdvanced Arduinoといったところでしょうか。現状のArduinoでは到達できない製品や産業応用に向けて,十分に満足して使え,開発者がデザイン等の部分に注力できるような強力かつ柔軟なプラットフォームを提供できることを直近では目指しています。現在,エクスペリエンスデザインに注目しています。
#最近子供(2017年時点で小学校2年生)がプログラミングに興味を持ったため,Scratch(Web版)をはじめました。Raspberry Piでも動くため、今後,Scratch(PC web版)→Scratch on Raspberry Pi→Minecraftやrobot操作などに繋げられたらいいなと思っています。子供から学ぶことは多いです。
そして,私自身の視点(POV: Point of View)は,『忘れがたい驚異的な経験を得るための人や機械のためのインタフェースの提供』です。人間死ぬときに持っていけるのは,思い出や経験だけですからね。それを手助けできるようなことに興味があります。
やっている研究の概要
半導体産業は斜陽産業のような印象を持っている方もいらっしゃるかもしれませんが,世界的に見れば成長産業(経済産業省「生産動態統計 機械統計編」,世界半導体市場統計「WSTS」による)です。今後も,社会性ロボット,自動車(電子制御,ネットワーク化,ADAS),医療応用,人工知能,ビッグデータ,IoT,Trillion Sensorなど,幅広い分野において半導体が利用されることが予想されます。
これらを見越して,SoftbankがARM(マイクロプロセッサのソフトIP,2016年7月18日,約3兆3000億円(240億ポンド))を買収し,IntelがAltera(FPGA,2015年6月1日,167億ドル)を買収し,グラフィックボードから発展したNVIDIAはゲーム→GPU→自動運転,AIエンジンとして半導体事業を拡大しています。GoogleもAI用チップを開発してます(TPU: Tensor Processing Unit)し,量子コンピュータも開発しています(D-wave)。そもそも今のスマートフォン(スマホ)は,一昔のスーパーコンピュータ(スパコン)に匹敵する性能を持っています。新しい市場のカテゴリを定義し,市場を牽引している企業は半導体デバイスを内製し,強化していくものです。
これまで半導体産業のけん引役となってきたITRS(International Technology Roadmap for Semiconductors:国際半導体技術ロードマップ)は2016年5月にその活動を終了しています。そして,新たに,IEEE International Roadmap for Devices and Systems(IRDS:国際デバイスおよびシステムロードマップ)の活動が始まっています。これにより,デバイス,コンポーネント,システム,アーキテクチャおよびソフトウェアなどコンピュータ・エコシステムの構築のためのより広範な活動が活発化すると期待されます。最初の活動は2016年5月にimecで行われているようです。私がやっている研究内容は,「半導体技術を用いて,多種多様な超小形デバイスを作製し,システム化し,社会実装までもっていく」ことです。そのためには,IRDSが示すようにデバイスからシステム,さらには社会まで巻き込んでの,広範囲な研究開発が不可欠です。
ただ,別の観点から見てみると,IoTのビジネスにおいて利益の60~90%はデータ解析から得られる(by Janusz Bryzek)との意見もあり,IT系の企業は,情報は欲しいが,多くのデータを生むセンサ自体には興味があまりないようです(日経エレクトロニクス2016年2月号)。しかし,質の良い情報を得るには,質の良いセンサおよびシステムが不可欠です。入力部分であるセンサの質が低ければ,そのあとの処理でどれだけ頑張ろうと質の良い情報は得られません。
現在,機械学習(ディープラーニング)等で,認識や最適化を行うことが広く取り上げられていますが,その計算の基となるのは入力データです。ネット上のデータ,統計情報などなどの他に,センサからの情報も重要な入力となりえます。今後,もっとも伸び率が期待できる入力データのひとつでしょう。
センサデータの特徴を決めるのは,そのセンサデバイスなどのハード部分の他に,ソフトウェアと通信方式を含めたシステム全体となります。
私がやっている研究のひとつに,高い質のサービスを実現するための,高い質のセンシングを実現する,というテーマがあります。それは,「次世代ロボットのための,触覚を含む多種センサ機能を実現し,ネットワーク化されたシステムを実現する」というテーマです。このテーマを具体的に見て行きましょう。
次世代ロボットとは,少子高齢化が進み働き手が減る中での期待が高まる,人間共存型ロボット(個人用,公共用,産業用),装着型ロボット,移動ロボット,搭乗型ロボットなどを意味します。人に密着するロボットには,人間と同レベル以上のセンサが必要です。でなければ,危なく,使えないロボットになってしまいます。視覚センサ(ビジョンセンサ)はかなり開発が進んでいますが,ビジョンにも死角があるため触覚センサ等の物理接触センサの装着が必須となります。ただし,触覚センサは重要な技術ながら十分な性能が出ていません。つまりセンサの質が足りてません。
センサの質を高めるにはどうすればよいでしょうか。質といってもいろいろな指標があります。細かく正確な情報を取りたい(センサの値の精度をよくする),小さい値から大きな値まで幅広く情報を取りたい(ダイナミックレンジを広く取りたい),フレッシュ・リアルタイムな情報が欲しい(応答が速い),細かい時間で情報を取りたい(時間の分解能を高めたい),いろいろな場所での情報を取りたい(空間の分解能を高めたい),情報は扱いやすいものがよい(デジタルデータ),いろいろなセンサを扱いたい(マルチセンサ),取り付けやすい,といった指標があります。この指標すべてを満たせば,非常に質の高い情報を得ることができます。ただし,大量生産が可能で,コストはそれほどかけたくない(対性能指標が高ければコストは問題とならないケースもある),という条件は付きます。では,その実現方法について考えてみましょう。次のような考え方はどうでしょうか。
- センサ直近でセンサの値を読取ることで,ノイズやセンサの感度を下げる寄生成分などの要らないものからの影響を避ける
- センサ感度を良くすることができる
- センサの特性に応じて,センサ読取り回路を選択でき,また,その特性を変更できるようにする
- マルチセンサに対応でき,システム全体として多種原理のセンシングができる
- 用途に応じてダイナミックレンジや感度などを調整できる
- センサ読取り回路の出力は,仕様に合わせて信号処理・閾値制御(イベントドリブン),パケット形成する
- センサデータを加工し,付加価値を高め,上位処理側の負荷を下げる
- ユーザーフレンドリーなパケット構造
- 人の触覚システムのようにイベント・ドリブン型ネットワークを作ることができる
- デジタル通信により高速に応答できるネットワークシステム化する
- マイコンやFPGAなどと繋ぎやすい
- 応答を速くできる
- 時間分解能を上げ,時間分解能を上げる
- たくさん付けても大丈夫
- バス通信により,少ない配線での通信を行う
- 取付けやすい
- たくさん設置できる
これだったらうまくいきそうではないでしょうか。それでは,次にこれを実現する方法を考えてみましょう。それが次の2点です。
- MEMSセンサとLSIの集積化
- 同じ半導体技術を用いて,MEMSでセンサを実現し,LSIと一体化する
- イベントドリブン・バス通信ができ,またMEMSセンサと集積化ができるマルチセンサ対応型プラットフォーム用LSIの実現
これを実現することが,研究内容となります。コンセプト概要は以下の図のようなものです。

コンセプト概要
①MEMSセンサとLSIの集積化
MEMSセンサとLSIの集積化は我々の研究室のコア技術のひとつです。後から説明するLSI等を用いて,そのLSIとMEMSとを集積化(物理的・機能的に一体化)することで非常に小形(2.5mm角程度)なセンサ+信号読出し回路+信号処理回路+信号伝送処理を作り込むことができます。ディスクリート部品(市販品)の組合わせでは,5~10cm角程度になるものがこれだけ小形化できるのです。面積比でおよそ1/400~1/1,600もの小形化です。さらに,寄生成分などの削減も見込まれるのですから利用できるのであれば,使いたいのではないでしょうか?しかし,この集積化の技術は相当に難易度が高いものです。物理的な一体化の技術も必要ながら,LSIの技術,システム化の技術,実装の技術など,多岐にわたる多種多様な技術を結集しているためです。もう一つ,コストの高さもあります。我々は,その多種多様な知識・経験・装置などを基盤としつつ,開発時のコストを下げ,集積化する技術を開発し,そのサービスを開始しようとしています(日経テクノロジーオンオンライン記事)。
②イベントドリブン・バス通信ができるマルチセンサ対応型プラットフォームLSIの実現
ここで最も重要な概念はイベントドリブンです。イベントドリブンとは何でしょうか?あるイベントを待ち,そのイベントが起きたときに動く(駆動される=ドリブン)ことを言います。イベントはいろいろと想定できますが,ある一定以上の強い力や圧力がかかった,温度が一定以上もしくは以下になった,いやいや絶対値ではなく変化が一定値以上になった,などがあります。ここで判定基準となる一定の値のことを閾値とよびます。閾値を上回る/下回るとき,次の動作が始まるのです。データを処理したり,パケットに詰め込んだり,データ送信したりします。
このイベントドリブンの利点とは何でしょうか?イベントとは,気にかけるべき事象であり,逆に言えばイベント以外は気にかける必要はない事象です。触覚センサの場合,触ったときがイベントと定義もできます。この触ったときのみ,センシングしたデータを適切に処理してデータ転送するのです。これにより,必要なデータのみ送るので,応答が速いし,的確(無駄がない)で消費電力が小さくなります。様々な強みがありますが,①ひとつのバスの上にたくさんのセンサノードを設置でき,②しかも反応速度が速いのが主だった強みだと考えています。これにより数百,数千,数万個ものセンサノードを設置することを目指しています。
これらを実現するためのマルチ・センサプラットフォームLSIと集積化デバイスからなるシステムを提唱し,その実用化を進めています。このシステムの実用化が実現されれば,エッジ側で多種類・大量かつ質のよいセンシングデータを取得できるようになります。今までの事業化活動からその応用例には様々なものがあることが分かっています。エッジヘビーセンシングによりいままで経験できなかった世界を早く実現させたいと強く思っています。絶対に素晴らしい経験ができる世界が広がっているはずです。そもそも私が使いたいのです。
エッジヘビーセンシング(Edge Heavy Sensing)
『神は細部に宿る:God is in the details』、この言葉が根底にあります。通常この言葉は、建築、芸術や仕事について言われることが多く、「素晴らしいものは本当に細かいところまでこだわっている」という意味でつかわれることが多いですよね。「素晴らしいこと大切なことは、小さなこと細かいことから出来上がる」と言い換えることもできます。
細かいこと小さなこと普通知り得ないことを徹底的に調べ知ることで、素晴らしいことを実現するのが『エッジヘビーセンシング』の考え方の基本です。世の中の本質をあぶりだします。細部の情報にこだわることで神の所業を実現する、これが私の目指すところです。次のように「神は細部に宿る」を再定義します。
《細部から神が現れる:The details make god→こんな細かい情報を使ってこんなこと実現するなんてヤバい、神だ!!》
私のモチベーションです。
ここまでです。